成瀬悟策 『リラクセーション』 (講談社ブルーバックス) |
リラクセーション、と言うと昨今のブームで垂れ流される「癒し」系のハウツー本にまぎれてしまいそうだが、本書は著者のグループが臨床の分野で長年にわたって研究を続けてきた「動作法」の紹介である。 私たちも大学院で大野清志先生からリハビリテーション・カウンセリングとして動作法の入門コースを受講したことがあって、これはたいへん貴重な経験だったと思っている。脳性まひの子が、我を忘れてテレビに見入っているとき、それ以外のときには不当緊張で曲がってしまっている腕が伸びていることがヒントとなって、研究されてきたという話であったと思う。実習に入ると、硬いと思っていた筋肉が緩み、限界と思っていた関節が動くのである。理屈では聞いていたこころとからだの関係を、これほど身を持って味わうことは、なかなかできるものではなかった。 本書はもちろん写真も豊富で、自分で実践できるように書かれてはいるが、ハウツー本のようにカラー図解で一目瞭然というような種類の本ではない。じっくり読んで使うか、あるいはテキストとして使うことが必要である。 |
横山正編 『時計塔』 (鹿島出版会) |
発行が1986年だからもう古い本なのだが、これの成り立ちが面白くて、「チャイム銀座」という和光の宣伝雑誌に連載されたものをまとめたもの。執筆者はたいへん豪華で、建築プロパー以外からも由良君美、猿谷要、四方田犬彦といった人々が、それぞれに所縁のある各国各地の時計塔を、それぞれの切り口で取り上げて語っている。ちょっとした薀蓄、例えばなぜビッグ・ベンはそう呼ばれるようになったのか、札幌の時計台についている赤い星のマークは何なのか、といったことも面白いし、建築、町並み、社会制度との関係などは考えさせられる。もとより機械式時計の普及と近代合理主義思想とは深いつながりもあるし、都市の歴史の中の風景をイメージするのにも重要だろう。一番目立つところに誇らしく時計が掲げられている風景とは、何を意味するのだろうか。例えばそこに大仏の顔が見えた時代との本質的な違いはどこにあるのだろうか。 |