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バックナンバー(08年09月〜11月)
☆このページは映画などの感想ですので、特に断りなくネタバレあります。悪しからず。☆

『つぐない』('07 イギリス) あの観覧車から兵士たちはどう見える

 イアン・マキューアン原作の、これは重い映画でした。姉に嫉妬した少女が偽証して、姉と愛しあう青年を暴行犯に仕立て上げる。タイトルどおりこれはその贖罪の物語なのだが、その意味は最後まで明らかにならない。その最後は、ネタバレありの感想とお断りしている私の感想といえども、さすがにこれは書けない。そのストーリーももちろんだが、キーラ・ナイトレイの美しさ、それに最初の田園風景の美しさと対照的な、ダンケルクの撤退のモブシーンの凄惨でありながら幻想的とも言える映像表現には、ただただ圧倒される。そして愕然とさせられるラストの展開を見て、それが予測とはまったく異なって単純なカタルシスではない、もっと大きな困惑に満ちた快感をもたらすことに驚くほかはない。問題作にして傑作なのは間違いない。

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『ジェイン・オースティンの読書会』('07 アメリカ) 結局、ル・グィンとどっちが面白かったのか

 バツ6だったか7だったかのオバちゃん、ブリーダーの独身女性、その親友で夫が女性を作って離婚した奥さん、そのレズビアンの娘、バスケットしか興味がない夫とかみ合わないフランス語教師、SFファンの男性の6人が、ジェイン・オースチンの6編を月一持ち回りで読書会を開く。オースチンの小説の解釈に、それぞれの実人生が絡むわけだが、6人分だからなかなか筋が濃くて、エミリー・ブラント、マリア・ベロ、エイミー・ブレネマン、マギー・グレイス、と、みなステキな女優さんばかりなのも加わって、こってりと楽しめる。特にオースチンについて予備知識は要らない。大筋では人間関係が修復される物語なので、温かい気持ちになって見終わる。最近のアメリカ映画ではかなりお勧めの作品。

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『COMPOSER 響き続ける旋律の調べ』 ('05 日本) やっぱりもじゃもじゃでなくちゃ

 TEAM-NACS の公演の DVD。芝居の好きな人からすると、DVDで見てどうのこうのと言っているのも間抜けなことだろうが、なかなか面白かったです。モーツアルトとベートーベンとシューベルトがみなサリエリの弟子で、モーツアルトはすでに死んで悪霊となり、音楽家に取り付くという設定。ベートーベンの苦悩をシューベルトがモーツアルトとともに見つめる。小ネタのギャグがちりばめられているものの、ストーリーはいたってシリアスで、考えさせられる。もちろん生でハラハラしながら見るモノだといわれれば返す言葉はない。コメンタリー入りで見ればそれはなおよくわかる。

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『風の前奏曲』('04 タイ) 木琴でバトル

 タイの伝統楽器ラナートの国民的演奏家の生涯を綴った作品。父子の葛藤を越えて名手との対決に勝つ波瀾万丈の半生と、欧化政策で弾圧を受ける伝統音楽のシンボルとしての晩年の思いを入れ子にした展開。実話に基づくエピソードにも、演奏シーンをはじめとする映像と音楽にも、目が離せない興味深さがある。実際にラナートの名手であるというライバル奏者の怪演もすごかった。

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『カンナさん大成功です!』('06 韓国) 痩せたらスゴイいんです。それは・・・太っててもスゴかったからです。

 これはおもしろかったなあ。鈴木由美子原作のコミックスの映画化。学園モノなどアジアンリメイクをよく見かけるが、これは韓国の芸能界や整形事情などにうまくかみ合わせたもののようだ。4時間かかるという特殊メイクも見ものだが、キム・アジュンの切なげな表情や歌のうまさ、チュ・ジンモの腹立つほどかっこいいけど何となくいいヤツっぽい印象で、違和感なく楽しめるコメディになっている。でもコンサートのシーンは「あれ?」という展開(に私には思えた)。オチは気が利いているんだけど。

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『オーロラ』('06 フランス) 美しいことは悲しいこと

 ヒロインはパリ・オペラ座のバレエ学校の生徒、ほかパリ・オペラ座のエトワールはじめ、一流のバレエダンサーたちが出演する、豪華そのもののファンタジーである。まずは主演のマルゴ・シャトリエの可憐さにとろけます。王妃のキャロル・ブーケもさすがの美しさ。列国の王子たちが舞踏会に呼ばれますが、「ジパンゴ国」王子の竹井豊はいいんですが我が国の踊りとして披露されるのは白塗りの暗黒舞踏。んーこれじゃオーロラちゃんには引かれるだろう。舞妓さんかせめて阿波踊りでも・・・というような無粋なことは言っても仕方ないか。オーロラは王を救いますが、悲しくも美しい結末が待っています。もっとも、映画として特に優れているということでもなければ、踊りが特別に素晴らしいということでもありませんから、バレエ的な興味を引くという点ではドキュメントの『エトワール』でしょうが、出演者の高貴さや重厚な映像はどこを取っても素晴らしいので、バレエ好きの人が気楽に見てそれなりに楽しめる作品というところかと思います。

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『全然大丈夫』('07 日本) 平成版「そのうち何とかなるだろう」または「これでいいのだ」

 荒川良々が主役と言うだけで、ユル系作品だと思って見ることになる。で、実際そうなのだが、なかなかおもしろかった。荒川は蟹江敬三演じる古本屋の息子で、造園業の手伝いをしながら、ホラービデオを作ったりコレクションしたりしている。ヒロインは木村佳乃で、恐ろしく不器用だが絵がうまく、河原で不思議なオブジェを作り続けるホームレスのおばさんを観察しては描いている。お人好しの友人が勤めている病院清掃の面接に木村が応募してきたところから、三角関係になるのだが、古本屋のなじみ客のココリコ田中と木村が仲良くなって、というようなお話。本当にどこまで大丈夫なのか分からないが、荒川は造園業に勤めているし(そろそろ正社員になるか、といわれて、正社員じゃなかったんですか? と聞き返すあたりも象徴的)、木村も落ち着きどころを見つけたし、そこそこの居場所を見つけることは本来そんなに難しいことではなかったはずなのに、ニートだの何だのとどうなっちゃったんだろうと思う。

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『ショーシャンクの空に』('94 アメリカ) 檻の中の御伽噺

 隠れた名作の評判が高い作品なので、借りてみた。スティーブン・キングの原作も読んだことがない。妻と愛人を殺したという冤罪で服役した元エリート銀行員の主人公が、財務の知識を利用して刑務官から刑務所長までの面倒をみる。しかし着々と脱獄や所長の汚職告発への準備を整えて・・・という話。俳優たちの演技は手堅く、目をそむけたくなるであろう刑務所暮らしの現実もほどほどに工夫され、ヒューマニズムを感じさせるエピソードもそこここに織り込まれていて、ツボが押さえられているのは原作の妙か脚本の業か。非常に誠実に作られた作品であるには違いないのだが、しかし脱獄用の穴をあんなふうに掘り続けることが可能なのか?という肝心のところで、どうしても映像のリアリティが邪魔をする。私はキング読みではないので確かなことは言えないのだが、キングは小説ならではのちょっとした寓話性を、読み手の楽しみとして仕立ててくれていて、それを映像にしてしまうと、リアリティとのはざまで楽しみが違和感にすり替わってしまうのではないか。でもまあ、単純に感動的な話ではない、キングらしい皮肉やひねりのスパイスはうまく効いていると思う。

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『サイドカーに犬』('07 日本) 自転車カゴにシーズー、みたいなもの?

 職場の帰りにしばしば見かけるのだが、ママチャリの前カゴにシーズーを乗せて走っているおっさんがいる。そのシーズーは、前足をカゴにかけてご機嫌なのだが、なにせ鼻の短い犬種だから、向かい風のせいでしょっちゅうくしゃみをしている。亡くなったウチの老シーズー、鼻に息を吹きかけるとすぐに鼻を鳴らして逆襲(鼻水飛ばし)に出ていたのはそういうことだったのか、と、新しく飼っている鼻の長いミニチュアダックスに息を吹きかけてもきょとんとしているので気づいた次第である。前置きが長くなった。タイトルは少女が家族旅行でエンコした車から見ていた、実際の風景の記憶からきている。ストーリーは、ダメ父に愛想をつかした母が出て行った後、若い愛人がやってきて、子どもたちがいつの間にか彼女と仲良くなる、といったところか。あらためてあらすじを考えると、斬新なものではないのだが、だからこそなんとなく落ち着いて見ていられるのかもしれない。竹内結子は巧いし、脇を固める役者も贅沢で、映像も東京郊外の夏の風の匂いが感じられる景色を写し撮っていて、居心地の良さを増している。しかしなんといっても子役の松本花奈がすばらしい。演出の巧さももちろんあるのだろうが、大げさにならない、あくまでも自然に見えながらコントロールされた表情や仕草が神々しいくらいだ。この後あまり出演作品がないようで残念。いずれ大人の女優となって帰ってくるのだろうか。

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『謎の円盤UFO』('70 イギリス) 美女と宇宙人

 サンダーバードにリアルタイムではまっていた世代でも、アンダーソン作品で記憶に焼き付いているものはいろいろなのでしょうか。私はやはり、サンダーバードの次はコレ。というわけでDVD借りてみました。とりあえず3話分見ました。放映のころは中学生だった私、このかっこいい主題歌は忘れられませんが、お姉さんたちの色っぽさには気づいていたんでしょうか? この歳になって見直すとそっちがすごく気になります。メカニックはかっこいいのにUFOのデザインはいまいちです。異星人は地球人の臓器奪いに来ます。当然、あまりにも人間に似ています。どう見ても地球並みの重力の月面で、友情が芽生えちゃうくらいです。科学力がすごいというわりに、手持ちの武器は銃弾が単発で出ます。ストーリーはあまりにご都合主義ですが、それでも楽しめてしまうのは、丁寧な作りやそこそこのドラマ性の他にも、サンダーバードで慣れ親しんだユーモア感覚、そして何よりもおねえさんたちのおかげでしょう。先の展開はほとんど覚えていませんが、全般的に暗い感じがイギリス風です。続きも見ちゃうかも。

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『街のあかり』('06 フィンランド) 映画であって映画でないような

 この監督の映画を見るのが初めてなので、もしかするととんでもない勘違いをしているのかもしれないのだが、私にはこの街が空虚に蒸留された舞台に見えるのだが、フィンランドの人から見ればリアルな街なのだろうか。そういう簡潔化された舞台の上に、必要最低限の登場人物が必要最低限の演技で細い糸をつむいでいくような展開を見たように思うのだが違うのだろうか。主人公の男は無表情で、彼をだます犯罪者の情婦や彼を慕うソーセージ屋の女の役割は様式化され、冷たい風景の中にネオレアリズモ風のストーリーが淡淡と運んでいく。というわけで私はちょっと気取った芝居を見ていたような気分で見終わったのだが、それでよかったのだろうか。面白かったのかどうか、実のところ良く分からない。

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『マッハ !!!!!!!!』('04 タイ) たぶん!は8個が正しい

原題は盗まれる仏像の名前だが邦題は!いっぱいの意味不明さ。タイ映画でムエタイネタというから気楽な映画かと思いきや、確かにアクションシーンのお金はかけずに力技で見せる痛快さは、笑っちゃうくらい面白く、トゥクトゥクのカーチェイスなんかもう最高!だが、格闘技賭博に不良外人に美術品流出にドラッグ取引と、庶民の暮らしの重苦しさもしっかりと練りこんでいるあたりが、映画の内容にコクを与えている。ジャッキー・チェンに憧れてこの世界に入ったと主役の俳優も言うように、ジャッキーの映画にも共通の、東西関係の相関図が確かに読み取れる。そういえば主人公の対戦相手には日本人もいて(技は国籍不明だったが・・・)アジアにおける日本のポジションが何となく表現されているかもしれない。主人公の禁欲的な雰囲気が全体を引き締めている。タイにおける仏教の二面性というか多様性も反映されていて、純化された国家仏教の隙間にしっかりと根を張った、民間信仰と混ざり合った庶民の仏教が、娯楽映画の筋立てを成り立たせているのも面白い。

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『世界最速のインディアン』('05 ニュージーランド/アメリカ) ヘヴィメタルたっぷりのモーニングティーはいかが

 オートバイが好きな人、というのが確かにいるのだなあと、ときどき気がつく。金持ち熟年向きの銀行のTVCMでも緒方拳がオートバイ欲しそうだし、今読んでいる哲学エッセイもオートバイで息子を乗せて旅しながら語っていたりする。バイクにまったく興味はないのだが、マニアとしてはCMの緒方拳ではないが、たしかに「カッコイイネ!」という感じはする。
 この映画は、超年代モノのバイクを延々と改造し続けるニュージーランドの老人が、アメリカのスピードレースに参加して、新記録を出すという、実話に基づいた話である。しかしこのじいさん、カッコイイという感じからはかなり遠い。怪しげなホテルに泊まったり、いかがわしい中古車屋に行ったり、けっこう女性とはそこそこよろしくやったり。エントリーの仕組みすら知らず、出たとこ勝負なのだが、不思議に周りが味方になっていき、レコードホルダーになってしまうのが痛快。感動するというよりはあきれたじいさんロードムービーとして楽しめる。スピードレースの会場となる塩の平原はすごい。

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『クジラの島の少女』('02 ニュージーランド) クジラに乗って女王になって聖母になった

ニュージーランドのマオリ族の勇者の伝統を伝えようとする祖父と、男子にしか許されないその勇者を受け継ごうとする孫娘を描く。ケイシャ・キャッスル=ヒューズは13歳で出演したこの作品でアカデミー主演女優賞の史上最年少候補者となって、スターウォーズにもちょこっと出演したのち、話題作『マリア』で聖母役を熱演、私生活でも十代の母親になっているとか。なにはともあれこの映画は彼女の演技力がなければ話にならないわけで、不遇な生まれながらも祖父に愛され、しかし勇者の跡取りとしては決して認められないというアンビバレンツな立場を鮮烈に演じきっている。海の映像も素晴らしく、これは映画館で観たかったと思わせる。クジラが打ち上げられるシーンなど、どうやって撮影したのだろう。ハッピーエンドではあるが、民族の伝統の継承という意味で、たとえば『その名にちなんで』でも感じたような、しかしこれはこれでうまくいくのだろうか、という宙ぶらりんの不安は続く。そのように作られているのだろうが。演技にも映像にも脚本にも満足させられた。

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『ダーウィン・アワード』('06 アメリカ) 進化したバカ

まずこれはダンシモンズの『ダーウィンの剃刀』と関係あるのかなと思っていたが、どうやらそれはなさそうだ。たしかシモンズは兄弟が保険調査員で、そこからとんでもない事故の事例を引いてきたとまえがきかなにかで読んだが(本がいま手元にないので確かめていない)、この映画では、とんでもなくおバカな死に方をしてそういうおバカの遺伝子を淘汰したことを表彰するという、ブラックなサイトに由来しているとのこと。車にロケットエンジンをつけて走らせて山の中腹に突っ込んで死亡とか、メタリカのコンサートを見るために塀を乗り越えたら反対側はずっと深く、途中まで落ちた友達を引き上げようとロープを下ろして車でバックするつもりが前進して壁を突き破り落下、二人とも死亡などという事例は、まさに死ななきゃ治らないバカの存在を明らかにしている。映画の筋は、プロファイリングの天才なのに血を見ると倒れてしまい、殺人犯を取り逃がしてしまったことから警察を首になった男が、保険調査員として雇われようとする。そのテスト期間に組んだ女性調査員と、おバカな事件を調査しているうちに仲良くなって、結果的に首のきっかけになった殺人犯を追い詰めるという話。さすがにシモンズの小説と比べるとだいぶスケールは小さいが、調査する事例が面白いので、なんだか見終わってみたらけっこう満足していたりする。もっとも、主人公を学生カメラマンが取材しているという設定はなくもがなだ(何か重要な伏線か?と期待していたが、まあラスト近くでそれなりの役割は果たすものの、あまり必然性はないと思う)。お騒がせ女優のウィノナ・ライダー、私は結構好きなのだが、役の上でもなかなか挑発的な雰囲気で、柄にあっているのではないだろうか。

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